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No.5 トラギク VS. 鬼子(2/3)

last update Última actualización: 2025-10-13 11:00:56

 ボクが目覚めると、赤茶けた土がむき出しになった土地が目の前に広がっていた。

その上空にはさっきまでいた真球が浮き、その直下に小柄な老人が立ってこちらに向って妖気を放っていた。

これが今回の敵か。

ボクは屋根もドアもない車の後部座席に立っていて、隣の席にはあの子がボクのことを見上げていた。

こんなに近くにいるのにボクを怖がっていないようだ。

今度の「あたし」も前と同じ子で十六夜ではない。

よっぽどこの 「あたし」はあの子の信頼が厚いらしい。

そして運転席にもう一人。その人は夕霧太夫の知り合いだった。

(あんたがボクを呼んだの?)

「いいや。私は夏波に辻沢醍醐を与えただけだよ」

そうか 「あたし」は夏波なのか。夏波は十六夜の記憶の一番大切な場所にしまってある名前だ。

どうりで十六夜はこの「あたし」にボクを託したんだな。

辻沢醍醐は飲んだ人の意思によってその威力が変化するという。

血の代わりにと思って飲めばそうなるし、自力を増せと思えば爆発的に強くなる。

夏波は鬼子に発現することを望んで飲んだ。だからこれは夏波の意思ということか。

 車の周囲に妖気が渦巻いていた。それを鬼子の結界が防いでいた。寒いのはそのせいだろう。

(これをどけてくれる?)

「もう少ししてこの光が拡散すれば解除する」

 それまでしばし待てといことだった。

面前の敵はボクの得意な近接戦が通じなさそうな相手だった。

実はボクは妖術使いとの闘いは今回が初めてだった。

妖気が散り、結界を解くときが来た。

(行くよ)

 車を降りようとしたらあの子がボクの腕に触れて、

「夏波、気をつけて」

 夏波はボクの名前ではないが嬉しかった。

ボクはずっと一人で闘ってきて誰かに励まされたことなどなかった。

あの子はいつも側にいてくれたけれど、それは禁忌を犯さないよう見張っていただけだった。

心が同じ方向を向いているのにその思いを感じた

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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-106.地獄の蓋が開くとき(2/4)

     冬凪が夜野まひるにべったり張り付いている鈴風を呼んで来てあたしの側に座った。そして、「クロエちゃんに教わったんだ。昔のJKがやってたフィンガーサイン」 そう言うと冬凪は右手でピースサインを作り、あたしたちの真ん中に差し出した。鈴風も同じように前に出して冬凪の中指に自分の人差し指当てる。「「夏波」さん」も」 あたしは中指を鈴風の人差し指に、人差し指を冬凪の中指に付けた。「5人でやると五芒星になります」 夜野まひるが言った。前の時はユウさん、ミユキ母さん、クロエちゃん、夜野まひるともう一人でこれをやったのだそう。 あたしたちのを見るとそれは三角の辺が凹んだ歪な形だった。「マキビシ?」 忍者の武器みたいだ。「3という数字は、破壊と創造を表すそうです」 鈴風が言った。それに冬凪が、「破壊と創造か。あの世で何をするかもわかってないけど、そういう事なのかもしれないよね」 つまりあたしたちはあの世で大暴れするってことになるわけね。 しばらくして紫子さんが伊左衛門をおんぶして立ち上がって言った。「そろそろかね」 社殿の暗がりにリング端末の明かりが一斉に灯る。時間は0時になろうとしていた。南中まであと30分。「う」 豆蔵くんと定吉くんが作業があるからと先に社殿を出て行った。赤さんたちが鈴風に目線をくれてからそれに続いた。辻川町長一団が出口の襖をぶっ壊しそうになりながら出て行く。校長室でもおんなじ事してたよ。あの黒服サングラスたちは学習能力がないのだろうか?最後に夜野まひるが出て行くのに鈴風も誘われてついて行きそうになったのを冬凪が止める。「鈴風さんは、あたしたちと一緒」 渋々それに従う。 冬凪は鈴風を元の位置に落ち着かせると、真ん中に等高線がびっしり描かれた図面を広げた。それは鬼子神社を上から見た詳細なものだった。

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-106.地獄の蓋が開くとき(1/4)

     潮時の時刻が迫るにつれてクロエちゃんの様子がおかしくなってきた。社殿の床に突っ伏して口を開け荒い息をしている。皆んな見てるような見てないような微妙な感じで距離を保っている。そんな中、クロエちゃんに寄り添って背中を撫でさすってあげているのはミユキ母さんだった。 クロエちゃんの口から涎が垂れる。「ごめん」 ミユキ母さんがそれを袖で拭いてあげる。「ね」 二人の間には長年そうしてきた二人にしかわからないエニシがあるのだ。 そう言えば、紫子さんや伊左衛門は潮時関係ないんだろうか? 紫子さんは相変わらずじゃれつく伊左衛門のことをあしらうのに忙しそうだ。まあ、伝説の二人だから例外ってことでオk?(死語構文)「夏波は大丈夫なの?」 そうだ。あたしも当事者だった。なに他人事してんだろ。「体調なら特に何もないかな」 石舟のアクティベートは潮時ってクロエちゃんは言ってたけど、鬼子の発現もマストアイテムなんだろうか?そうだとしたらあたしも準備しとかなきゃだ。このままだと素のまんまで石舟乗ることになりそうだ。何かブッ刺すものはっと。そうだ、夜野まひるが用意したアフタヌーンティーセットに銀製のホークあったはず。「あの……」 夜野まひるに話しかけてみる。「どうぞ。これでいいですか?」 銀製のホーク渡された。胸ポケットにそれをしまう。「でも鬼子になるのはマストでないと思いますよ」 やば、心の中読まれてるし。脳死脳死。 ピ―――――――――――――――。「前回のあの時、ユウ様は発現を乗り越えていらっしゃいました」「ほんと?」 とミユキ母さんを探したけど社殿の中にはいなかった。「外に出てったよ」 冬凪が教えてくれた。クロエちゃんが暴走を始めたから追いかけて行ったんだそう。

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    「お腹空いたでしょ」 紫子さんが伊左衛門に社殿の隅に置いてあった大きめのリュックを持って来させた。そして、「クロエちゃんたちも呼んでおいで」 と言った後、中からランチョンマットを出して床に敷くとその上に山のようにオニギリを盛った。「お腹空いたでしょ。たくさんあるからお食べ」 と勧めてくれる。どれにしようかと手を伸ばすとどれも海苔が巻かれていない塩ニギリだった。冬凪もあたしも海苔が嫌いなのを紫子さんは知ってて用意してくれたのかと思った。ミユキ母さんも海苔が嫌いだ。そう言えばクロエちゃんもだった。ワンチャン(死語構文)……。「伊左衛門も海苔が嫌い?」 ラップを剥がして塩ニギリにかぶりつこうとしている伊左衛門に聞いてみた。「うん。嫌い。海の匂いを思い出すから」 夕霧物語の中に、伊左衛門は海で入水を試みたけど死ねず夕霧太夫に拾われたとある。その時身体中にまとわりついた潮の匂いのせいで海苔がダメになった。つまり鬼子はみんなその記憶を持ってるから海苔が嫌い。そんな属性いらんでしょ。 塩ニギリばっかり、中には青い実をまぶした山椒ニギリもあったけど、さすがに飽きて3つまでが限界だった。冬凪はあたしの隣で、相変わらず両手に塩ニギリ持って食べ続けてるけども。ラップの量から推して10個はいってるな。 そこに夜野まひるが、「遅くなってしまいましたが、食べていただけるとありがたいのですが」 と、先ほど宿泊先のホテルから届いたというアフタヌーンティーセットを広げだした。地味で埃っぽい社殿の床が一度に花が咲いたように明るくなった。美術品のようなサンドイッチの盛り合わせとカモミールティー。おなか鳴っちゃうじゃん。「夏波さん。どうぞお食べください」 あたしのおなか鳴ってないよね。そんなに物欲しそうな顔してたか? するとミユキ母さんが、「まひるさんは人の心が読めるだよ。あんま

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(2/3)

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  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-105.流され子(1/3)

     鬼子に母親はいない。この社殿の船に戻って来る。 ミユキ母さんの言葉はあたしの記憶とは違うけれど、あたしはそれを知っていた。エニシはずっとそのことを教えてくれていた。魂がそれをわかっていた。薬指の疼きで、今そのことに気付いたのだった。 エニシはさらに鬼子の最初を、鬼子が鬼子になる時のことも知らせてくれていた。 今は失われてしまった母宮木野の墓所で見た辻沢の残留思念を思い出す。 宮木野と志野婦が屍人の母宮木野を離れて墓所の石室から出て行った後、場面は天井の沼に変わった。そこに現れた母宮木野は若かったけれど、顔は酷くやつれて憔悴しきった姿で葦原の水辺に佇んでいたのだった。その胸には牙が生えた赤ちゃんを抱いて困り果てているように見えた。母宮木野は意を決したように沼に浸かると赤ちゃんを水に沈めてしまう。水面に激しく泡が立ち断末魔の大泡が吹き出すと水に真紅が広がっていった。沼が真っ赤に染まって母宮木野が水から出てきたけれどその胸に赤ちゃんの姿はなかった。その沈められた赤ちゃんが後の夕霧だとヘルメット男は教えてくれた。 その時あたしは、赤ちゃんが流された先のことしか頭になく、どうやって生き延びたかまでは考えなかった。 伊左衛門を膝に乗せて額絵馬を見上げる紫子さんのその儚げな横顔に物語の夕霧太夫が重なった。エニシがあたしの魂に語りかけて来る声に耳を澄ます。 あの赤ちゃんが大きくなって夕霧になったわけではなかったんだ。夕霧は赤ちゃんの魂を我が身に引き受けたんだ。 ―――流され子。 名前すらつけてもらえず、誰にも知られることなくこの世を去る子ら。この世に生を受けたのに生きることが出来なかった子たち。行き場のない魂たち。「鬼子の体は魂を乗せる舟みたいなもの」 鬼子神社から四ツ辻に向かう山道でクロエちゃんが言ったのだった。 あたしたち鬼子は流され子の魂を乗せる舟なのか。彷徨う魂のためのゆりかごなんだ。エニ

  • ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文)   3-104.鬼子の母親(3/3)

     ミユキ母さんがあたしをそっと抱き寄せてくれた。「そんなわけないよ。冬凪と夏波の二人の親とも事情があって育てられなかったんだよ」 じゃあ、どこかにいるってこと? それはミユキ母さんがいる前では口にすることはできなかった。紫子さんの膝の上伊左衛門がいたずらっぽい目であたしを見て、「建前ではね」 と言った。「こら! だまんなさい」 と紫子さんに窘められたけれど聞かないで続ける。「鬼子は沈まないんだよ。また浮き上がって生まれ変わる。だから親なんていないんだ」 沈む? 浮き上がる? 親がいない? 鈴風の記憶の中の柊と田鶴さんのことを思い出した。二人は鬼子と鬼子使いとして何百年も転生を繰り返し何度も出会ったと言っていた。ただ、転生するにしても親がなければ生まれて来られないんじゃ?「親がいないってどういうこと?」 ミユキ母さんが冬凪とあたしを交互に見た後、紫子さんに目を移した。紫子さんが小さく頷く。そしてミユキ母さんが再び冬凪とあたしに目を戻して言った。その言葉はミユキ母さんのものとは思えないほど重苦しかった。「あたしたちは」 ミユキ母さんはそこでちょっと言葉を切った。そして何かを決心したように口を開くと、「鬼子はね、この社殿の船に戻ってくるの」 潮時の翌朝、社殿から赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくることがある。その声は必ず社殿の船底からだけど、船底に降りる階段は板と釘で封じてあるから誰かが忍び込んで置いていったのではない。そこで生まれたのだ。つまりこの船が鬼子の母体なのだそう。そんな想像の斜め上行くこと言われても、それがミユキ母さんの言葉である以上、冬凪もあたしも信じるしかないのだ。でも、あたしにはひっかかることがあった。それはあたしの一番古い記憶だ。その記憶の中のあたしは赤ちゃんで、船底のようなところで女性の胸に抱かれていたのだった。

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